『サブスタンス』
お久しぶりでございます。映画『サブスタンス』を観てきました。昨年からずっと公開を楽しみにしていた映画で、というのが私は美醜というテーマにとても関心があるからです。岡崎京子の『ヘルタースケルター』みたいな感じなのかなとかボンヤリ思いながらあんまり事前情報は入れずに観に行ったんだけど、想像と全然違う映画でした。
いくつかトピックスに分けて感想を書きます。ネタバレ含むので観てない方はご注意を。
[テーマは美醜なのか?]
事前情報を入れない状態でも、ルッキズムやエイジズム、その背景にある男性優位社会みたいなことがテーマとして囁かれているのは目にしていて、でも個人的にはそこはそんな重要ではないというか(あくまで個人的には)、どちらかというと「持っていたものが手の間をすり抜けていくことに対する抵抗と執着」って感じがしました。その表現の手段として、若さとか人気とか、そういうことがあるのかなと。エリザベスは年齢や美しさの衰えという点に、降板されるまでそこまで自覚的ではなかった気がする。人気を失ってはじめてそこに意識を向けているという印象で、その時点で『ヘルタースケルター』みたいな感じかなという私の予想は大きく外れていた。で、「持っていたものが手の間をすり抜けていくことに対する抵抗と執着」というテーマについては常日頃私も目を背けたいけれどもあらゆる観点から自分に向かってくる問題としてあり(もちろん老化もしかりですが、たとえば親がいつまで元気でいられるか、みたいなことも含めて)、ここは非常にダメージを喰らいました。
[REMEMBER YOU ARE ONE]
エリザベスとスーは当たり前にお互いを疎ましく思っていくのだけれども「どちらもあなたですよ」という事実を毎度告げられる、ここが個人的には一番この映画の好きなところ。特にエリザベスが自分を律しようと頭を叩くシーンは非常に胸を打たれた。無理に決まってるから。やはり人は調子に乗る生き物だし、パッと世界が明るく輝き出したら、そうじゃなかったときのことなんて忘れてしまう、自分から切り離したいと思ってしまうのが常なのだなと思った。自分の話でいうと、昨年からたびたび、自分に余裕がなくてうまくいかないと、どこか他責思考に陥りやすくなるという自分の癖に辟易しており、そこを説教された気分であった。REMEMBER YOU ARE ONE。プリントアウトして壁に貼っておきたいくらいである。
[結局、かわいいって何?]
個人的には第三形態のエリサスーがもっとも精神的に素直で可愛いと感じた。自分の外見に絶望することなく、いじらしく耳飾りをつけて収録に挑む。ステージに立つ。錯乱したグロテスクな状態ともいえるかもしれないが、なんとなく清らかなものを感じた次第。正直なぜあそこでステージに立てるのかが意味がわからなくて(スタッフが通すはずがないので)、もしかしたらバスルームでエリザベスとスーと第三形態が見ている夢なのかもしれないのだけど、ステージに立って「私です、エリザベスで、スーです」と言うところ。ここでもやはり、外見の美醜とは一線を画した人気への執着が伺えた(そして、ラストに至るまで)。日本版の映画ポスターのキャッチコピーが『かわいいが暴走して、阿鼻叫喚』だったけれども、エリサスーにふさわしいコピーだなと感じた。
[長い]
ここでそろそろ終わりかなと思ってからが長い。3転くらいする。全般的に皮膚が切り裂かれたり内臓が飛び出たりするため、とてもカロリーを使う。私はホラー映画やゾンビ映画にそこまで慣れ親しんでいないため、ここも結構ダメージを喰らいました。しかし長い割にどんでん返しや伏線回収などがほぼないので(名作オマージュはたっぷりありますが、、、)、ちょっと冗長に感じました。ストーリーに意外性はそこまでなく、どちらかというとディズニーランドのアトラクションにずっと乗ってる感じ?これは好みの問題であって、このジャンルに私が慣れ親しんでいないということが大きいです、しつこいけど。
[かっこいい男性が一人も出てこない]
すごく余談なのですが、よく村上春樹の小説って女性の描写が雑だよねと言われて一部の女性陣から不評を買っているじゃないですか。それの男性版って感じがしました。いや違うな、村上春樹は女性を透明な存在のように描いてるけれども『サブスタンス』はステレオタイプかつ魅力的ではない男性しか出てこない気がして、男性はこれを観て憤慨したりしないのだろうか?と思った。唯一、喫茶店の老人だけまともかな。若さの象徴としての男性、権力の象徴としての男性、逆に頼りない男性。これは『バービー』でも感じたことだけど。鼻につきすぎる演技が上手なデニス・クエイドに拍手。
総じて、何かじんとするメッセージをもらうとか、社会に対して怒るとか、そういうわかりやすい感情を許さない映画だなと思った。しかしこれっていつの時代の話なんですかね?SNSなんかはまだない時代?いやでもスマホでメッセージ受信してたよな?ユニフォームなどにオリビア・ニュートン・ジョンの時代を感じつつ、アメリカだから作れる映画だよなーという印象もあった。
そして体を張った演技をみせてくれるデミ・ムーアがまた好きになったのでした。